首の痛みと腰の痛み、どっちがつらい?
このところ、頚椎捻挫など首の痛みでみえる患者さんがたまたま続いて思い出した症例があります。
4、5年前の1月中旬のことですが、ドイツに駐在している方から「首を痛めてかなり辛いので先生のところへ行きたいけど、何か特別お休みはありませんか」という電話。実はその方は、それを遡ること数年前に腰を痛めて初めて来院され、以後海外転勤になってからも夏休みとクリスマス休暇で帰国する度にケアされておられました。その電話の半月前にも治療にお出でになり、暮れの29日に最後の治療を施し元旦の飛行機で帰独されたはず。聞けば「最後に先生に治療してもらった晩に、親戚の者と酒の勢いで柔道になり、大外刈りを食らってなんとか踏ん張って腰は痛めなかったんですが、首を痛めちゃいました。その時は大したことないかなと思って、そのまま元旦の飛行機で帰ってきたんですが、段々ひどくなってきて仕事にも差し支えてます」とのこと。
仕事の段取りをつけて来日するようにしますということでしたが、忙しい方で来れたのは3月のお彼岸の頃。あちらではイースターの4連休ということですが、最終日は会議のためにパリに着いてないといけないということで一泊二日の滞在です。土曜の朝9時に成田からたまプラーザ行きのバスで到着してすぐに拝診しました。診ると、3カ月近く前に痛めたというのに右の首筋から肩背部にかけて腫れているのが一目瞭然。「これはいじりすぎですよ」と申し上げ、早く炎症が引くように治療して午後に整形外科でレントゲンを撮ってもらうことをお願いしました。夕刻再来院してもらってその結果を聞くと、そこそこの異常はあるものの大きな障害はないようなので一安心。本人は辛いからどうしても強いマッサージでもなんでも我慢して受けていたのでしょう。炎症の上塗りを続けていたわけなんです。とにかく時間がありませんから「濃厚な治療を施して疲れさせちゃうけど、帰ってから楽になるから少し我慢してください」と翌日も朝と午後3時に施療してそのままバスに乗ってもらいました。都合二日間で4回治療したわけです。僕が勤務していたころの東洋整復院では、よく遠方から泊まりがけでムチウチ症や椎間板ヘルニアの治療に来る方があったのを思い出しました。その時にも、滞在期間の中で治療疲れを起こさない限りの最大級の治療を施し、早く治癒して帰ってもらったものです。
さすがに帰ってから少し発熱したそうですが、それで8割がた楽になって1カ月後、関西方面にある本社への一週間の出張の際には、関空便でなくわざわざ成田便にしてもらって行きと帰りに治療に寄ってもらいました。3カ月後、夏休みで帰国された時にはもうすっかり何でもなく長距離ドライブもできたとのこと。
今でも夏休みとクリスマス休暇に帰国されると、特別痛めていなくてもケアにおいでになりますが、そのたびに「いやあ、あの時は参りましたよ」と仰る。1ヶ月後に出張で帰れると分かっていても、わざわざ自費でお出でになるくらいですからその辛さは推して知るべし。腰の椎間板ヘルニアを当院で治したくらいですから、腰の痛みに関しては彼はベテランなわけです。その彼曰く「首の痛みは腰の比ではありません。腰の痛みはなんとか凌げるんですが、首の痛みはじっとしていることさえできず、イライラして仕事に集中できなくて辛かったですわぁ」と。痛みにもいろいろあって腰でも身動きできないだけでなく、激痛を伴って眠ることさえできないというのもありますから、一概にどちらがというのはナンセンスなことかも知れませんが、彼が経験した範囲の腰の痛みに比べた場合は今回の首の痛みのほうが勝るということでしょう。ただ僕が患者さんを拝見して感じるのは、腰の痛みの患者さんは痛みがきつければ鎮痛剤などがそこそこ効きますからしかめっ面をしてる人は割と少ないですが、首の痛みの方の中には腫れがひどくて鎮痛剤も効かず悶々としてしかめっ面をして憔悴しきった感じで来院される方が多いです。どちらにせよ、経験して判定を下したくない症状ですよね。